The design of insight 〜インサイトのデザイン〜

Design

今回の記事は、Zyrian Chungさんによる「The design of insight」の翻訳記事となります。

記事では、筆者のZyrianさんの経験から、デザイン領域においてのインサイトとか何か?また、インサイトから我々は何を得ることができるのか?という点をご紹介しています。
詳細は記事の中でに書かれていますが、「インサイトは、人々に共感し、システムを理解し、世界を知るための、デザイナーの新しい目であり、満たされていないニーズを発見し、機会を特定し、アイデアを生み、過去を探索し、現在に没頭し、未来を垣間見るためのもの」として定義されています。

上記の定義がどのようなことを示しているのか、解説していきます。

筆者のZyrian ChungさんはUniversity of the Arts Londonでデザイン講師をされています。

オリジナル記事はこちら⏬
https://uxdesign.cc/the-design-of-insight-16c4ef96ff7f


Insight is formed from the prefix in- and the word sight.
Insightは接頭辞in-とsightという単語から形成されていますね。(Photo by Amanda Dalbjörn)

Zyrianさんの好きな番組の「Rick and Morty 」を観ていると、コンサルタント会社で働いていた頃の記憶を呼び覚ますそうです。というのも、マッドサイエンティストのRickが、気まぐれな孫のMortyを連れて、さまざまな惑星や次元へ冒険を繰り広げるという内容です。
RickとMortyのように、デザインコンサルタントも、様々な業界のクライアントに対して、その文化や環境に身を置きながらアドバイスを行います。ステークホルダーへのインタビュー、フィールドリサーチやデスクリサーチを行ったり、それらを踏まえて洞察やプロトタイプの作成、未来の推測、仮説の検証、そしてその後の戦略のアドバイスや実行をしていきます。

Zyrianさんは長年にわたり、NotionやTrelloといったメモアプリに過去の文化的な冒険で経験したこと、観察したことや考えをまとめたDossierを保存してきました。また、言葉、写真、物語、引用、格言、そして面白いと思ったリンクなどを保管しています。表、スケッチ、マインドマップなどを使って、自分の考えや思いを書き留めています。パンデミック後のヘルスケアや多感覚なストーリーテリングなど、新しいトピックを探求するたびに新しいDossierを作成しています。

Dossier (名詞): 特定の人物や対象に関する情報の集まり。
探偵は事件に対して一件のDossierを作成し、採用担当者は候補者一人に対して1つDossierを作成する。
この記事では「ファイル」や「書類」と考えていただければと思います。

残念ながら、Zyrianさんは自分の資料をうまく管理・整理できておらず、ごちゃごちゃとした状態になってしまっていて、必要なものを探し出すのがとても難しいのです。(あるあるですよね、、)ロンドンに移ってから自由な時間が増えたので、混沌とした状態から秩序を作り出し、自分自身や他の人がより消費しやすいように、自分のdossiersを少しずつ記事にしていくことにしました。その第一弾が、「洞察力」についてのdossiersです。(まさにこの記事)

新しい目としてのインサイト

マルセル・プルーストは小説『プリズニエール』の中で、「冒険の旅における唯一の真の発見とは、新しい風景を求めることではなく、新しい目を持つことである」と書いています。(英語では“The only true voyage of discovery, not in seeking new landscapes, but in having new eyes.”)
彼は、le seul véritable voyage(the only real voyage)とは、物理的な場所に移動することほど単純ではなく、想像的な場所に移動して、他人の知覚、すなわち新しい目を通して世界を経験することだと記しています。

これはデザイナーにおいても同じだといえるでしょう。デザイナーは他人が知覚し、感じている世界(また、pluriverse⏩多言的な世界)を理解し、体験することが好きです。また、人々の文化的な生活に没頭し、彼らと交流し、彼らの感情や行動を研究しています。加えて記事を読み、データを収集し、パターンや緊張状態を発見します。プロセスやシステムを精査し、複雑さや関係性を分解し、決定的な決断や原則に疑問を投げかけます。そして、理解、批評、映像、マルチメディア、体験といった形で発見を言語化し、表現することで、気づかないうちにインサイトを深めていきます。

そもそもインサイトとは何か?

インサイトについてのHow /Whyを説明する前に、デザインというコンテキストの中で「インサイト」についての定義明確にしておく必要があるでしょう。

インサイトとは、深い知識を求める手段であり、機会を発見する道であり、デザインパラダイムに挑戦する行為である。

ここでいう「奥深い知識」「機会」「デザインパラダイム」は、3つのキーコンセプトです。

  • 奥深い知識とは、人、組織、あるいは世界を新しく深い視点から理解することです。また、それを獲得することで、epiphany(アハ体験)が起こること、といえます。
  • 機会とは、答えではなく、質問であり、満たされていないニーズを満たす新しい製品、サービス、システム、世界について、人々の想像力を刺激し、促進するものです。
  • デザインパラダイムとは、理論、方法、基準、概念など、確立されたフレームワーク、パターン、システムのことです。個々のユニットではなく原型を、特定のソリューションではなくアイデアのシステムやパターンを、特定の人物や物体ではなく組織やエコシステムを指します。パラダイムシフトは、デザインパラダイムに根本的な変化が生じたときに生じます。(また、その結果、生まれるのがイノベーションです。)

インサイトは、人々に共感し、システムを理解し、世界を知るための、デザイナーの新しい目であり、満たされていないニーズを発見し、機会を特定し、アイデアを生み、過去を探索し、現在に没頭し、未来を垣間見るためのものです。

なぜインサイトが重要なのか?

Zyrianさんたちは、ビジネスの世界で活躍するデザイナーとして、ビジネスを成功に導き、他社に差をつけるためのインサイトを創造しています。ここでは、成功した企業がインサイトの作成に投資した理由を紹介します。

  1. 問題を特定し、熟考する。アインシュタインは問題の重要性を力説した。”もし問題を解決するのに1時間あったら、55分を問題について考え、5分を解決策について考えるだろう”。インサイトは、思い込みを暴き、仮説立案に挑戦し、興味深い問題を発見し、既存の問題を再定義する。
  2. 共感を深め、人間のニーズを掘り起こす。インサイトは、ユーザーの行動、痛み、ニーズを明らかにします。インサイトは、ユーザーの根底にある願望、信念、価値観を明らかにします。喜び、悲しみ、信頼、偽装、恐怖、怒り、期待、驚きなど、ユーザーの感情に共感し、その感情を体感することができます。
  3. アイデアを刺激し、パラダイムシフトを促す。型にはまった質問は、しばしば型にはまったアイデアを生み出します。独創的なアイデアを生み出すには、面白い質問が必要です。インサイトは、ひらめきのきっかけとなるような質問を生み出すための適切な材料を提供します。
  4. 未来を想像し、予測する。インサイトは、今日の課題を明らかにするだけでなく、未来の課題も示しています。インサイトは、私たちに今日の世界を再考することを促し、可能な未来について思索的な議論と実現可能な夢を見るためのスペースを作り出します。
素晴らしいインサイトを作り出すためには?

素晴らしいインサイトを作り出すことは簡単ではありません。練習、経験、我慢強さ、そしてリソースが必要です。もし、あなたが初めてインサイトを作成するのであれば、以下のヒントを参考にしてください。

すべてを書き留める。最も影響力のある社会人類学者と言われるBronisław Malinowskiは、かつて「すべてを書き留めよ」と言った。優れた洞察力は時間をかけて作り上げられるものですが、速いペースで進むプロジェクトにおいてはゼロから始める時間はほとんどありません。 コツは、何年もかけて徐々に機密性ではない知識を貯めていくことです。
Zyrianさんは、TrelloやNotionでdossiersを作成し、言葉、写真、ストーリー、リンクなどを使って、自分の意見や考察を記録しています。

あらゆるソースからデータや情報を収集する。デザイナーは、直接の物語、経験、知識を得るために、定性的なフィールドリサーチを行うようトレーニングされています。しかし、ニュース、記事、書籍、雑誌、オープンデータ、トレンド、レポート、フォーラム、ソーシャルメディアなど、オープンソースからの机上調査や定量調査の重要性は軽視されがちです。これは、より時間と費用対効果の高い手法で、トピックや定量的データの基本的な理解、フィールドリサーチやより大きなスケールの市場や消費者データによる裏付けを提供してくれます。(データの質とソースの判断についてはそれだけで1つの記事ができるでしょう。)

他分野にまたがる思考で分析する。デザインは学際的なものであり、データを分析し、その理由を明確にし、さまざまな考え方から洞察を得るには、学際的な考え方が必要です。
・デザイン手法(テリトリーマッピング、エクスペリエンスマッピング、アフィニティダイアグラム、コードクラッキングなど)。
・推論(帰納、演繹、仮説生成など)。
・民族学的観点(ミクロ・マクロ社会学、人物描写、メカニズム描写など)。
・ビジネステクニック(例:PESTLE、SWOT、VPEC-T分析など)。
・哲学的手法(言語学的、概念的、弁証法的、ソクラテス的など) etc…
さらに、クライアントや他のチームなど、他の人たちに参加してもらい、データや出現しているパターンを改めて見てもらうと、知識のギャップを埋め、前提を覆し、個人のバイアスを認識するのに役立つことがあります。

自分たちの特性を振り返る。私たち自身の経験や背景は、インサイトを形成する方法に影響を与えます。デザイナーは、自分の存在をバイアスの源とみなすのではなく、自分の属性や考えを振り返ることで、データを独自に理解することができます。私は通常、統合する過程でチームと内省のためのセッションを行い、自分たちの属性、仮定、偏りを認識し、書き留め、話し合います。

質問をする。質問は、優れた洞察力を開発するための強力なツールです。質問をし、建設的な議論をすることで、人々は心を開き、意見交換を促し、結果として想定される洞察の質を向上させます。

さまざまな形式を模索する。Yehuda Bergは言葉の力について、「言葉には、助ける力、癒す力、妨げる力、傷つける力、貶める力、謙遜する力を持ったエネルギーとパワーがある 」と語りました。私たちが、声明、詩、小説、散文など、さまざまな形式の言葉から洞察を探るようになったのは、紛れもなくこのためなのです。しかし、オーディオ、ビジュアル(グラフ、絵、地図、フォトジャーナルなど)、ビデオ(ライブ、録画、モーショングラフィック、アニメーションなど)、体験(インタラクティブ、没入型、ゲームなど)といった他のフォーマットで洞察を伝える方が、より魅力的で刺激的、かつ記憶に残ることがあります。

最後に

例えば、主観性に対する哲学的アプローチと科学的アプローチ、人間中心のデザインと環境中心のデザイン、バーチャルエスノグラフィーの有効性、民族学のロマンチック化と過小評価、実用主義と理想主義、構造バイアスの防止と受容など、デザインコミュニティではインサイトとリサーチについてまだ多くの未解決の議論があります。
したがって、この記事を書くことで、インサイトの何を、どのように、なぜ研究し、議論し、再考し、それが企業や組織、そしておそらく世界や人類にとってどのように有益であるかを思い描くために、他の人や自分を鼓舞することができればと思っています。
お読みいただきありがとうございました。

参考文献

今回の記事は以上となります。

デザイン領域においての「インサイト」はどう定義されるのか?そして、その定義を構成する要素にもそれぞれ言及がされており、1つ1つ話題が掘り下げられている感じが非常にわかりやすい記事だったと思います。
そのような記事を書くことができるのもZyrianさんがNotionやTrelloのようなメモに書き溜めていった成果なのかなと感じました。素晴らしいインサイトを作り出すためには、まずはすべてを書き留める。という言葉が体現されているな、と。

やはりこのような専門的な用語の多い記事を翻訳していくには英語力が足りないな…と強く感じました。もっと量をこなせるように頑張らなくては、、、!!

こんなところで本日の記事は終わりにしたいと思います。
それではまた明日!

Source:https://uxdesign.cc/the-design-of-insight-16c4ef96ff7f

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